あゆみよる、18時。

私は夏が嫌いだ。暑さに耐えられないのと、

何より虫や蜘蛛が出てくるから嫌だ。

 

蜘蛛は虫を食べてくれるからそっとしておいたら という人もいるが

夏に虫はアホほどいるのに、その虫を食べ続けていたら大きくなるではないか。大きい蜘蛛(以下K)なんて想像もしたくない。

ちなみにうちの母親は、朝にKを見つけて処分しようとする私に「朝のKは退治したらあかん。夜にし」といい

夜に処分しようとしたら「夜はあかん。暗いし可哀想やから朝にし」といい

昼に処分しようとしたら「虫を食べてくれるんやから置いといたり」という。

それなら昼夜問わずに、虫を食べてくれるということを売りにしてこい!ほんで、夜は暗いし可哀想ってなんやねん!という言葉をぐっと飲み込んで、なんとかしてくれと母親に言う。

 

 

でも夏にKは出てくるし、避けて通れない問題なので、こちらから歩み寄ることにした。

巣を作るKに対しての考え方を変えてみよう。

 

①高校を卒業し、大学へ進学を機に、地元を離れ、初めての一人暮らしで、不動産に紹介されたのが私の自転車だった。

 

Kは地元のそこそこの高校を卒業し、専門的な巣の張り方を勉強したいと言う理由で大学を受験した。表向きの理由は勉強だが、本当はSNS(スパイダー ネットワーク システム)で連絡を取り合っていた女の子と高校を卒業したら同じ学校に行こう!と約束をしていたのだった。

初めての都会での巣作りで、右も左もわからないKは、不動産屋に「よく虫が通る場所で、静かで、落ち着いた色の出来たら、建物じゃなくて、自転車系がいいんですけど…あ、あとすぐ巣を払う人じゃなくてそこそこ優しそうで、かつ自転車に頻繁にのる人で…自分、自転車と一緒に移動して、いろんな景色見るの好きなんすよね!」と相談する。すると不動産屋が「つい先日まで埋まってた人気の自転車に空きが出たんですよ!」とKを連れて不動産屋はわたしの自転車を物件として紹介する。感じのいい白い自転車に轢かれたKは、一発でここへの入居を決めた…。後程、とんでもない敷金礼金を請求されるとも知らずに…。

 

理由はどうであれ、人気と言われたり、そこそこ優しそうと不動産側から認識してもらえていることに関して悪い気はしない。だが、私の住んでいる街は都会ではない。都会から近くもない。悪徳の不動産屋に捕まったとしか言いようがない。なにより進学の理由が不純なので嫌だ。ていうかKに高校があるという時点でなにを生意気な!と言った気分になるので却下。

 

②失恋して巣を作ったのが私の自転車だった。

 

ある日Kは巣に帰ると、自分より若い女が彼氏の横に座っていた。

「別れて欲しい」そう言って彼は部屋にあるKの荷物をまとめた袋を差し出した。

薄々気づいていたのだ。最近、彼の帰りが遅いこと。巣の張り方が普段と違うこと。思い当たる点は沢山あった。彼の隣に座る女は、申し訳なさそうに俯いている。それが少しだけ救いだった。自分よりも守ってあげたくなるような、細くて長い足。

現実を受け入れるのに精一杯だったが、「じゃあ、またね。」と小さく呟く。微かに声が震えてしまった。

 

そんな声に彼は気づいただろうか?

 

重い足取りで新しい巣を作る場所探す。短く太い足に、今までの思い出がのしかかる。初めて会ったのは、白い自転車の荷物置きだった。彼が巣をつくっていた所に私が間違ってひっかかってしまったことが出会いだった。巣にひっかかって、呆然としている私を見て、笑った彼の顔を思い出した。

ふと振り返ると、彼の巣が見える。ずいぶん歩いたと思ったが、それほど距離は進んでいない。

 

あの植え込みに2匹で巣をつくって、どちらが虫を多く捕まえられるか競った。駅のポストの下に巣を作って2人で雨宿りをした。私が好きな虫を、彼は毎回私にくれた。でも、本当はあの虫がそんなに好きじゃなかった。虫を捕らえた時にあの人がする得意げな顔が好きだった。どう?美味しいでしょ?って聞いてくるあの優しい声を聞くことももうない。

 

この街には思い出が多すぎる。

ここで過ごすのはあまりにも自分にとって酷だ。そんなことを考えながら、ふと顔を上げると彼と初めて知り合った時と同じ色の自転車があった。

 

もう、今日は疲れたからここで巣を作ろう。私は明日から本当に好きな虫を食べて生活することが出来るんだ。だから、また明日から頑張ろう。今日は、ここで一眠りしよう…。出会った頃の夢を見れるように祈りながら。

 

んー。なんていうか…可哀想。

可哀想やねんけど、どっちかっていうとKで

足が太くてっていうのを想像すると鳥肌立つから嫌やな… 。例の毒Kしか頭に浮かばん。今文字で書いただけでも鳥肌立つわ。

まだ細い方がいい。確かにひどい男やし、浮気相手もどんな顔して巣におったんかなって思うけど、やっぱりKならまだ華奢な方が個人的には許せるっていうか… 。あとなによりその辺の自転車で寝やんと、実家とか帰ってゆっくり寝た方がいいんちゃうかな。

 

やっぱり、どう考えてもKは無理やな。